観光地マーケティング論の重要性とは?観光地活性化の先にある未来|淑徳大学 朝倉はるみ先生にインタビュー


淑徳大学
朝倉はるみ教授


東京女子大学文理学部英米文学科卒業後、㈱日本交通公社(現 ㈱JTB)に入社するも、㈶日本交通公社(現 (公財)日本交通公社)という調査・研究機関に配属(移籍)されました。

行政(国、都道府県、市町村)等をクライアントとし、観光政策の立案・実施、観光計画策定といった調査・研究業務を通して、観光地の活性化に従事しました。

2012年4月、淑徳大学経営学部創設に伴い、同学部観光経営学科に転職、国内外の観光地や鉄道業界に関する科目を担当し、現在に至ります。

1.観光地のマーケティングを知るための基礎知識

私の考える「観光地のマーケティング」とは、観光地を1つの「企業」とみなし、観光地が財・サービスを販売して利益を獲得し、観光地として存続し続けるために必要な取り組みを指します。

もう少し具体的には、「何を」(観光地の財・サービス)、「誰に」(消費者、潜在的旅行者)、「どうやって買ってもらうか=来てもらうか」を、考え、実行することです。


観光地のマーケティングで重要なのは、「何を」「誰に」「どうやって」の順番を守ることです。観光地では、「誰でもいいから来てほしい」とか、「SNSをやれば観光客が増えるはずだ」といった考え方をしがちですが、最も大切なのは、「何を」を最初に把握することなのです。


先ほど、「何を」とは「観光地の財・サービス」と書きましたが、これは観光資源・観光施設といった有形の「モノ」と無形の「モノ」(ガイド、体験プログラム)のことです。

企業が自社の商品の種類や品質を把握するように、観光地も、どのような観光資源・観光施設があるのか、その種類や質、誘客エリアをできるだけ客観的に把握し、それに見合った「誰」、つまり販売(来訪)ターゲットを絞り込み、そのターゲットに適した「どうやって」、つまり誘客手法を考え、実施することが望ましいのです。


「客観的」と表現しましたが、これは「データに基づいて」ということです。「勘」や「経験」に頼るのではなく、観光地で収集できる多様なデータを踏まえて、一連の取り組みを進めることが必要です。

2.観光地マーケティングの土台となる観光計画の策定

観光地には、多様なステークホルダーがいます。一般的には、観光地は行政単位で考えます。国を一つの観光地と考える場合もあれば、都道府県単位、市町村単位で考えることもあります。これは、観光地のハード・ソフトに関わる「お金」に税金が投入される場合が多いためです。


ステークホルダーが多いということは、行政の中にも観光に関わる部署は多数あり、観光地には多様な業種・企業がビジネスを営んでいます。宿泊業、土産品店、飲食店、交通業等です。ステークホルダーごとに目指すところが違えば、「観光地」という1つのまとまりとしての改善・発展は難しくなります。


そこで、「観光地」というまとまりで中・長期的にステークホルダーの「ベクトル」を合わせる、つまり「観光地として目指す将来像」を設定してステークホルダーの知恵と力を結集させるための方針をまとめたものが必要となります。これが「観光計画」で、行政単位で策定されることが多いのです。


例えば、私の勤務するキャンパスのある埼玉県は、2012年度から「埼玉県観光づくり基本計画」を策定しています(2022~2026年度「第3期」の計画が稼働中)。観光づくりに関する施策を総合的かつ計画的に推進するための計画で、県、市町村、県民、観光事業者及び観光関係団体が一体となって観光づくりを進めることを目指しています。


また、東京都港区でも、2024~2026年度、第4次の観光振興プランを実行しています。コロナ禍がひと段落し、観光地として再スタートを切るため、区民、民間事業者、港区観光大使、全国の自治体等との連携を一層強化し、観光振興施策を多方面から実施することを目指しています。

3.観光地マーケティング論を活かして地域活性化に貢献する

観光地という「点」ではなく「面」で考えた場合、そのエリアをより魅力的な場所にしていくためには、長い時間と、多くのお金、関係者(ステークホルダー)の知恵や力が必要です。個々のステークホルダーが、それぞれの目標達成を目指すと同時に、「観光地」の一員であるという認識を持ち、「観光地」としての目標達成に向けて、やれること・やるべきことを役割分担してやることが望ましいのです。


例えば、観光地にとっては、日帰り客よりも宿泊客の方が「いいお客様」です。なぜなら、消費単価が高いからです。では、宿泊客を増やすにはどうすればいいか?


宿泊施設を増やさなくても、「泊まりたくなる宿泊施設」や、「日帰りでは楽しめないほど、たくさんの観光資源・施設のある観光地」を目指す、という方法もあります。宿泊施設だけの努力ではなく、観光地全体で宿泊客を増やす努力をする、これを観光計画に基づいて実行することで、観光客が増え、観光消費も拡大する、つまり地域活性化に結び付くのです。


観光地のマーケティングは、長期的視野と広範な視野を持って観光計画を策定することを第一歩とし、観光地のステークホルダーがそれぞれの役割を果たすことで、将来的には観光地の活性化が実現すると考えています。