【東北学院大学】大塚芳宏先生が解説!日本の景気に対してコロナが与えた影響と今後の展望

【東北学院大学】 大塚芳宏先生が解説!日本の景気に対してコロナが与えた影響と今後の展望

新型コロナウイルスに伴う規制緩和が進んできた昨今ですが、日本の景気に対して新型コロナウイルスはどれほどの影響を与えたのでしょうか。

特定の職業や分野についてはよく見聞きしたりしますが、日本の景気全体という観点ではなかなか想像がしづらいでしょう。

今回は景気循環を一つの研究分野として分析している東北学院大学の大塚芳宏教授にお話をお伺いしました。

略歴

立花証券株式会社企業調査部、北海道大学大学院経済学研究院助教、長崎県立大学経済学部講師、東北学院大学経済学部准教授を経て、2020年より同大学経済学部教授。

この間、東北文化学園大学非常勤講師、東京財団政策研究所主席研究員(客員)を歴任。

時系列モデルを用いた景気循環分析、空間計量モデルを用いた地域経済分析を専門としています。

景気に関連する論文として、Ohtsuka Y. (2018), “Large Shocks and the Business Cycle: The Effect of Outlier Adjustments,” Journal of Business Cycle Research, 14, pp. 143-178. があります

景気が変化する仕組みとは

インタビュアー:それではまず初めに、そもそもなぜ景気が変化するのかについて解説いただいても良いでしょうか?

大塚教授:ここでは、景気とは何か?というところから始め、景気がどのように変化するのかについて説明していきたいと思います。

よく、日常会話で「景気はどう?」というフレーズを見聞きすることがあるかと思います。この質問は「商売が順調であるかどうか?」ということを尋ねています。この場合、「景気」とは「自分が関連している商売の状況」を指すことになります。

次に、景気に相当する英単語はbusinessです。businessは「商売」とも意味し、busyの名詞形です。このことから、英語では「景気」とは「忙しさ」を指すことになります。そして、景気分析の対象は、国や地域全体であり、この全体の「商売の状況」や「忙しさ」を示すことになります。

それでは、景気をどのように測るのかについて考えます。「商売」であれば、売上高・販売量、利益などから測ります。「忙しさ」であれば、生産量、雇用者数、労働時間を見ていけば良いでしょう。このように景気は、色々な側面から見ることができます。

そして、景気の変化は「好況」や「不況」という言葉で状態を表します。忙しいのであれば、モノやサービスはよく売れているので、企業は利益を伸ばし、雇用者の給料も上がり、消費も拡大していくでしょう。逆に、忙しくないとは、モノ・サービスが売れておらず、給料も減ってしまう状況となります。前者が好況で、後者は不況に該当します。

インタビュアー:なるほど、景気という一言でも2つの側面(単語)から見ることができるのですね。

コロナが与えた日本の景気に対する影響度とは

インタビュアー:それでは本題の新型コロナウイルスが日本に与えたその影響について教えていただけますか?


大塚教授:ここでは、新型コロナウイルスによって景気がどれほどの影響を受けたかについて、景気動向指数を使って、説明していきます。

この景気動向指数は、景気の動きを捉えているとされる経済データを合成して、作られる指標です。景気指標の構成要素の寄与度を見ることで、新型コロナウイルスによる景気へのショックがどのように影響したかを見ることができます。

図は、現在の景気を表す一致指数の構成データの累積寄与度をまとめたものです。

新型コロナウイルスによるインパクトを示すために、リーマン・ショックと呼ばれる2008年から09年に起きた金融危機の期間と比較してみます。

上と下の図は共に、内閣府が定める景気後退期でデータを区切っています。コロナ禍を含む景気後退期を見ると、下押しのインパクトはリーマン・ショック時の方が大きくなっています。

しかし、景気の悪化速度をみると、コロナ禍は、最初の非常事態宣言が出された2020年3月末から2ヶ月で急激に景気が悪化しているのが特徴的です。

そして、金融危機と比較して、耐久財消費や労働投入のマイナス寄与度が高いのが特徴的です。これは、宣言により生産活動が停止したことで、車など耐久財などのモノが売れない、自宅待機により働けないことが影響しているとみられます。

しかし、今回のコロナ禍は対面業務を主としたサービス業が大きな打撃を受けているので、皆さんの実感を、この統計指標がうまく反映できていないというのも現状です。

インタビュアー:やはり最初の緊急事態宣言が発せられたときに景気が悪化したのですね。なんとなくですがニュースや見聞きする情報から体感はあったように思います。データとして表されると面白いですね。

今後、コロナ禍を経て日本の景気を良くしていくためには?

インタビュアー:それでは最後に、コロナ禍を経て日本の景気を良くしていくためにはどうすれば良いのかお伺いできればと思います。


大塚教授:コロナも5類に移行し、現在はコロナ感染拡大前の生活を取り戻しつつあります。しかし、足元での懸念材料は、消費の低迷が考えられます。

例えば、2023年4-6月期のGDP成長率をみると、家計最終消費の成長率が0.3%減となっています。みんながモノを買わなくなってきている理由として、昨今の物価高が要因の1つと考えられます。

図1は家計の物価状況を表す消費者指数と物価変動を考慮した給与を表す実質賃金を描いたものです。物価は2010年以降、一貫して上昇傾向でしたが、2021年以降、皆さんの実感と同様に急上昇しています。価格上昇に合わせて、給与すなわち所得も上がれば良いのですが、実質賃金を見てみると、総じて減少傾向にあります。

これにより、消費に回せるお金が減っていることを意味します。このまま、物価の上昇が続くのであれば、家計は財布の紐を絞めねばならず、モノが売れず、企業業績は悪化し、不況になるかもしれないです。

景気を良くしていくためには、どうすれば良いのか?という質問に対しては、月並みな回答になりますが、物価の沈静化ないし賃金の上昇が肝になってくると思います。

インタビュアー:ありがとうございます。確かに物価が上がり、実質賃金が下がっていることはよく話題に挙げられて耳にします。大塚教授のおっしゃるとおり、物価高に対する対策ないしは企業から受け取る賃金の上昇が今後の肝となるのは間違いなさそうですね。

こういった状況を踏まえて自身の生活やキャリアプランなどを再度考え直す良いお話を聞くことができました。

大塚教授、ありがとうございました。